
2026年4月、ソフトバンクグループ(SBG)が個人投資家向けに第8回ハイブリッド社債(劣後特約付)の募集を開始しました。「年4.97%(税引前)」という高い利率が注目を集め、SNSや金融界隈でも話題になっています。
一方で「35年満期の劣後債」「コールスキップ」「LTV問題」など、馴染みのない言葉が並び、「結局、買っていいの?」と迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、投資歴20年超の独立系FPが債券初心者の方でも理解できるよう、今回のSBG劣後債の仕組みとリスクをわかりやすく整理します。
- 今回のSBG劣後債、まず基本スペックを整理しよう
- 「劣後債」って何?普通の社債と何が違うの?
- なぜ「実質5年債」と言われるの?
- コールをスキップされたら、どうなるの?
- 格付け「BBB+」って、安全なの?
- LTVって何?なぜ問題になっているの?
- 「政府保証みたいなもの」という話は本当?
- 誰に向いている?誰には向いていない?〜FP視点で整理〜
- まとめ:「5年か35年か」それを決めるのはSBGです
- 補足:安全の選択肢として「個人向け国債」という手もあります
今回のSBG劣後債、まず基本スペックを整理しよう
まず、今回の債券の基本的な情報を確認しましょう。
| 項目 | 内容 |
| 正式名称 | 第8回利払繰延条項・期限前償還条項付無担保社債(劣後特約付) |
| 発行総額 | 4,180億円 |
| 期間(満期) | 35年(2061年4月22日満期) |
| 利率(当初5年) | 年4.97%(税引前)・年3.96%(税引後) |
| 5年後以降の利率 | 1年国債金利+3.383〜4.133%(変動金利) |
| 格付け | BBB+(JCR) |
| 購入単位 | 100万円以上、100万円単位 |
| 初回コール日 | 2031年4月22日(発行から5年後) |
国内ハイブリッド社債(利払繰延条項付)の条件決定に関するお知らせ | ソフトバンクグループ株式会社
発行体は「SBG=ソフトバンクグループの持株会社」です。携帯電話のソフトバンク(子会社)とは異なり、AI・スタートアップ投資を主軸とした投資会社としての性格が強いということを押さえておきましょう。
「劣後債」って何?普通の社債と何が違うの?
ここが債券初心者の方が最もつまずきやすいポイントです。
・普通社債(一般債)は、会社が借金をするための証書。会社が破綻した場合、まず普通社債の保有者にお金が返ってきます。
・劣後債は、同じ借金でも「もし会社が倒れたとき、普通社債の人が全員返済を受けた後でないと、返済してもらえない」という約束がついた債券です。
返済の優先順位(上が先)
銀行借入・普通社債
今回の劣後債(←ここ)
優先株式
普通株式(一番最後)

つまり、万一のときは「後回し」にされるリスクがある分、その補償として高い利率が設定されているわけです。
さらに今回の債券には「利払繰延条項」もついています。これは、SBG側の裁量で利息の支払い自体を後回しにできるという特約です。
通常の社債では考えられない条項ですが、こうした「株式に近い性質(資本性)」を持たせることで、格付け機関から資本として評価してもらうという設計になっています。
なぜ「実質5年債」と言われるの?
「満期は35年なのに、5年で返ってくると聞いた」―この噂の正体を解説します。
今回の債券には「期限前償還条項(コール条項)」がついています。これは、発行から5年経過した2031年4月22日以降、「SBGが好きなタイミングで繰上償還(早期返済)できる」という権利です。
過去の国内劣後債では、発行体が初回のコールタイミングで償還を行うのが慣行でした。そのため、多くの投資家や市場参加者が「今回も5年で返ってくるだろう」と考え、「実質5年債」と呼んでいるわけです。

ただし、これはあくまで「慣行」であって「約束」ではありません。
「慣行」と「契約」の違い
慣行:「これまでそうしてきた」という習慣・暗黙の期待
契約:「こうしなければならない」という法的義務
今回の契約書(目論見書)には「5年で必ず返す」とは書かれていません。
コールをスキップされたら、どうなるの?
「5年で返ってこなかったら」というシナリオを具体的に考えてみましょう。

投資家が受けるダメージ
①資金が長期間拘束される
「5年で返ってくる」前提で買った100万円が、5年後に返ってこない。次のコール日は半年後、さらに半年後、最悪35年後の満期まで続く可能性があります。
②債券の市場価格が下がりやすい
コールスキップは「SBGの財務状況が厳しいのでは」というシグナルとして受け取られやすく、市場での売却価格が大きく下落する可能性があります。実際、海外の劣後債・AT1債でコールスキップが起きたケースでは、価格が大幅に下がった事例も過去にあります。
③5年後以降は変動金利に変わる
5年経過後に償還されなかった場合、利率は「1年国債金利+3.383%」の変動金利に切り替わります。今の金利環境次第では、当初の4.97%を下回る可能性もゼロではありません。
SBGがスキップを選ぶとしたら
発行体が初回コールをスキップするのは「ルール違反」ではありません。想定されるシナリオとして
・金利が大幅に上昇していて、借り換えコストが跳ね上がる場合
・市場の混乱でSBGが新規発行できない状況の場合
・OpenAIなど大型投資の影響でキャッシュが不足している場合
こうした事態が重なると、「今の条件で持ち続けた方が会社として合理的」という判断が働きます。
コールスキップは「発行体からは合理的な判断」でも、「投資家には不利なイベント」として受け止められます。
格付け「BBB+」って、安全なの?
今回の格付けはJCR(日本格付研究所)によるBBB+です。
格付けはアルファベットで示され、大まかに以下のように分かれます。
| ゾーン | 格付け | イメージ |
| 高格付け | AAA〜AA | 国債・大手銀行レベル |
| 投資適格(上) | A〜BBB | 大企業の一般社債 |
| 投資適格(下) | BBB+ | 今回の劣後債← |
| 投機的 | BB以下 | いわゆる「ジャンク債」 |
BBB+は「投資適格の中の下寄り」です。すぐに危険というわけではありませんが、経済ショックや業績悪化があれば格下げされる余地がある水準でもあります。
また、ここで注意が必要なのは「格付けは劣後債としての評価」という点です。仮にSBGの普通社債がAランクなら、劣後債はそれより一段階低くなるのが通例です。つまりBBB+は、同社の発行体としての格付けよりも低い評価を受けていることになります。
LTVって何?なぜ問題になっているの?
「LTV」(Loan to Value)という言葉もよく出てきます。

LTV=借金÷保有資産の価値
たとえば、1億円の株を持っていて、3,000万円の借金があれば、LTV=30%です。この比率が高いほど「資産に対してレバレッジ(借金)が大きい」状態です。
SBGは長年「平時はLTV25%未満、異常時でも35%を上限」と説明してきました。
ところが、2026年2月にOpenAIへの300億ドル(約4.7兆円)の追加出資を発表したことで状況が変わってきています。S&Pなどの外部格付機関は「OpenAIへの大型投資でLTVが35%を超える可能性がある」と指摘しています。
SBGの「自己申告の財務目標」と、外部格付機関の「実勢の見立て」にズレが生じている状態です。
「政府保証みたいなもの」という話は本当?
一部の市場関係者から「孫正義氏が日米通商交渉の要であり、SBG社債は実質的に政府保証に近い」という声もあります。
結論から言えば、法的な政府保証は一切ありません。
孫正義氏がAI・テクノロジー分野において日米間の政治・外交で大きな影響力を持つのは事実ですが、それは「日本政府が支援するかもしれない」という推測に過ぎず、契約上・法律上の裏付けはありません。
「なんとなく安心」と「法的に守られている」は全く別です。投資判断では、この2つを厳密に分けて考えることが大切。
誰に向いている?誰には向いていない?〜FP視点で整理〜
今回の第8回SBG劣後債を、FP視点で整理してみます。
向いている可能性がある方
・SBGの事業(AI・スタートアップ投資)の将来に確信を持っている方
・今回の仕組みとリスクをすべて理解したうえで購入を検討できる方
・ポートフォリオ全体の一部(たとえば5%以内)として組み込む想定の方
・万一コールが来なくても変動金利で長期保有できる資金余力がある方
向いていない可能性が高い方
・「5年で必ず返ってくる」前提で資金計画を立てている方
・元本の安全性を最重視している方(老後資金・生活防衛資金など)
・100万円という最低購入単位が、資産全体に対して大きな割合を占めてしまう方
・SBGのビジネスモデルやLTVの意味をよく知らないまま高利率だけに惹かれている方
まとめ:「5年か35年か」それを決めるのはSBGです
今回のSBG個人向け劣後債を一言で表すなら、「名目35年、実績ベースでは5年、でも保証はない」という少し特殊な設計の社債です。
高い利回りの背景には、劣後特約・利払繰延条項・コールスキップの可能性・LTVの高さといった、いくつものリスク要因が折り重なっています。

多くの投資家が注目する「5年で返るかどうか」は、あくまでこれまでの“慣行”であって、「必ず5年で償還される」という契約上の約束ではありません。
「5年で終わるのか、35年まで続くのか」を決める権利を持っているのは、投資家ではなく発行体であるSBG側です。
だからこそ、この商品は「短期でおいしい高利回り商品」ではなく、「SBGの財務やビジネスモデルまで含めて理解したうえで、ポートフォリオの一部として慎重に検討すべき商品」と捉えるのが妥当だと考えています。
よく分からないまま話題性や利回りだけで飛びつくのではなく、ご自身のリスク許容度と資金計画に照らして、「本当に自分に必要なリスクかどうか」を一度立ち止まって考えてみてください。
補足:安全の選択肢として「個人向け国債」という手もあります
ここまで、ややリスクの高めな劣後債の話をしてきましたが、「債券で利息を受け取りながら資産を守りたい」というニーズに対しては、もっと安全寄りの選択肢もあります。代表的なのが「個人向け国債」です。
個人向け国債は、日本政府が個人向けに発行している国債で、元本や利払いについては国が責任を負う仕組みになっています。
種類は「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3つがあり、利率は決して高くはありませんが、その分、一般的には元本割れしにくい安全性とのトレードオフになっています。
「5年後には必ず教育資金として使いたい」「老後資金の一部はできるだけ減らしたくない」といったお金については、SBG劣後債のようなリスク性の高い商品ではなく、個人向け国債のような安全サイドの商品をオススメします。
今回の記事が、「高利回りの社債」と「安全寄りの国債」、それぞれの立ち位置を考えるきっかけになればうれしいです。
本記事の主な参考文献・出典
- 財務省「個人向け国債」公式サイト
- ソフトバンクグループ株式会社 国内ハイブリッド社債(利払繰延条項付)の発行に関するお知らせ
※制度や数字は執筆時点の公表情報に基づいており、将来変更される可能性があります。
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